
中小企業経営者のためのM&A完全ガイド|適正価格・のれん・デューデリジェンス・社員対応まで徹底解説3
目次
第3部:売り手企業の整理
メインタイトル:M&A売却前に必ず行うべき会社整理と株式の準備

M&Aをスムーズに進めるためには、事前に「会社と株式の整理」を済ませておくことが不可欠です。特に株式の名義や構成が複雑なままだと、取引がストップする大きな原因となります。ここでは、売却前に必ず整えておきたいポイントを整理します。
株式整理のチェックポイント
- 少数株主の確認
親族や古い取引関係者が少数株を持っているケースがあります。全員の同意を得られなければ譲渡が進まないため、事前の調整が必要です。 - 担保権の有無
銀行や金融機関からの借入で株式に担保が設定されている場合は、解除しないと自由に譲渡できません。 - 株主名簿の整備
株式名義が古いまま(相続未処理、住所変更未反映など)になっていると、契約がスムーズにできません。必ず最新化しておきましょう。
株式を一人の名義にまとめるメリット
M&Aをより円滑に進めるためには、株式を可能な限り一人の名義にまとめておくことが望ましいです。
メリット
- 交渉がスムーズになる:契約相手が明確になり、スピード感を持って取引が進みます。
- リスクの最小化:少数株主の反対で交渉が止まるリスクを排除できます。
- 価格交渉の明確化:「一株いくら」に囚われず、会社全体の価値で話し合えます。
注意点(資金・会計・人間関係)
- 税務上の影響:親族等から買い取る場合、譲渡所得税や贈与税の論点が生じます。
- 資金調達の課題:少数株主からの買い取り資金が必要。
- 親族関係の調整:株は「財産」。丁寧な説明と合意形成が不可欠。
資金の会計処理
- 会社が買い取る(自己株式の取得):勘定科目「自己株式」(純資産の控除項目)。会社法の手続きと分配可能額の制約に注意。
- オーナー個人が買い取る:会社には仕訳なし(個人の資金移動)。税務は個人の譲渡・贈与等の論点。
保険の解約返戻金を資金に充当できるか?
- 会社が自己株式を取得:保険を解約し現金化した資金を充当可能(解約益の課税や会社法上の制約に留意)。
- オーナー個人が取得:返戻金を個人へ直接は不可。配当・役員報酬・退職金などの形で取り出す必要があり課税を伴います。
保険と資産性の有無
M&Aでは、会社が契約している保険が資産として評価対象になる場合があります。
掛け捨て型(資産にならない)
- 火災保険・自動車保険・賠償責任保険
- 定期保険・団体定期保険
- 所得補償保険(就業不能保険:社長の病気やケガで給付、返戻金なし)
解約返戻金のあるタイプ(資産性あり)
- 終身保険(長期資産形成・死亡保障)
- 養老保険(一定期間の保障+満期金。退職金原資)
- 長期平準定期保険(長期安定的に返戻金が推移)
- 逓増定期保険(返戻金が急増、ピーク活用型)
- 福利厚生保険(従業員退職金積立)
各保険の比較
項目 | 終身保険 | 養老保険 | 長期平準定期保険 | 逓増定期保険 |
---|---|---|---|---|
保障期間 | 一生涯(無期限) | 一定期間(10〜20年等) | 長期(60歳・65歳まで等) | 一定期間(10〜30年等) |
満期 | なし | あり | なし | なし |
特徴 | 死亡まで保障、長期資産形成 | 満期金あり、退職金原資に適す | 返戻金が長期安定推移 | 返戻金が急増しピーク後減少 |
主な利用目的 | 事業保障・長期資産形成 | 退職金・福利厚生資金 | 経営者退職金・弔慰金 | 短期の承継資金・退職金 |
M&A評価 | 解約返戻金が資産 | 解約返戻金+満期金が資産 | 解約返戻金が資産 | 返戻金が資産(ピーク解約で資金) |
M&A前に解約を検討すべき保険
- 逓増定期保険:ピーク時に解約して資金回収した方が合理的。
- 養老保険:満期前に中途解約して返戻金を回収。
- 終身保険(オーナー被保険):M&A後は不要になりやすく解約検討。
M&A後も残しておくべき保険
- 掛け捨て型保険:火災・自動車・賠償責任・所得補償などのリスク管理。
- 福利厚生保険:従業員の安心・定着に資するためプラス評価。
法務・財務・労務の整理
- 定款や登記簿の最新化
- 許認可や契約書の整備
- 過去3期分の決算書の整理
- オーナー個人と会社資産の分離
- 就業規則・雇用契約書の整備
まとめ
売り手企業がM&Aを成功させるためには、株主構成の整理と株式の一元化、保険の資産性を把握して「解約すべきもの/残すべきもの」を仕分け、株式買い取り資金の調達方法と会計処理の整理(保険返戻金の活用可否を含む)、そして法務・財務・労務の透明化が欠かせません。とくに保険は企業価値や売却価格に直結するため、交渉前に整理しておくことが成功のカギになります。
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