
中小企業経営者のためのM&A完全ガイド|適正価格・のれん・デューデリジェンス・社員対応まで徹底解説2-2
第2部 パート2:デューデリジェンスの重要性
デューデリジェンスとは?
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、M&Aの前に「本当にこの会社を買って大丈夫か?」を確認するための徹底調査のことです。
🏠 家を買うときの例えで考えると…
家を買うときに、不動産屋さんが見せてくれる資料や外観だけを見て決める人はいませんよね?
- 壁の中にシロアリがいないか
- 地盤が弱くないか
- 登記や権利関係に問題がないか
- 修繕費が将来どれくらいかかりそうか
👉 デューデリジェンスは、会社版の「住宅診断」と考えると分かりやすいです。
📊 会社を調べるポイント
デューデリジェンスでは、次のような項目を重点的に調べます。
- 財務:借金や隠れた負債はないか?帳簿は正しいか?
- 法務:許可や契約関係に問題はないか?訴訟リスクはないか?
- 人事・労務:未払い残業代やトラブルはないか?従業員は定着しているか?
- 税務:税務処理は適切か?追徴課税のリスクはないか?
- 事業環境:主要顧客や取引先は継続してくれるか?業界の見通しは?
🎯 デューデリジェンスの目的
- 安心して会社を買うための安全確認
- 価格が妥当かどうかの裏付け
- リスクを事前に把握して対策を立てること
💡 簡単に言えば、デューデリジェンスは「会社の健康診断」+「未来のリスク診断」です。これをせずにM&Aを進めると、買収後に「隠れた病気」が見つかって大損することもあります。
なぜデューデリジェンスが必要なのか?
- 簿外債務の発見:決算書に載っていない借金や保証債務が隠れていないかを確認します。
- 法務リスクの確認:許認可、契約内容、訴訟リスクなど、法的に問題がないかを洗い出します。
- 税務リスクの把握:税務申告に誤りがないか、追徴課税の可能性がないかを調査します。
- 従業員・労務の確認:未払い残業代や退職金債務など、労務リスクをチェックします。
- 事業環境の把握:主要顧客が取引を継続してくれるのか、市場の将来性はどうかを確認します。
- 環境リスクの確認:特に建設業や産業廃棄物処理業などの許可制事業では、排水・排ガスや土壌汚染のリスクも重要です。
特に重要な「三本柱」:法務・財務・人事労務デューデリ
デューデリジェンスには多くの分野がありますが、その中でも「法務・財務・人事労務」は特に優先度が高い調査です。売り手・買い手双方にとって重要な理由を整理すると以下の通りです。
1. 法務デューデリ
- 売り手にとって:許認可や契約関係を整理することは「安心して買ってください」という信頼の証。更新忘れや不利な契約があると価格が下がる恐れがある。
- 買い手にとって:買収後に「許可切れで事業継続できない」「訴訟トラブルを抱えていた」となれば投資は失敗。会社が合法的に事業を続けられるかを確認する調査。
2. 財務デューデリ
- 売り手にとって:正確な決算書や資産内容を提示することで、価格交渉を有利にできる。曖昧な帳簿は不信感につながり、評価が下がる。
- 買い手にとって:簿外債務や過剰在庫を見抜く調査。怠ると「高値づかみ」になるリスクが高い。買収価格の妥当性を裏付ける基盤。
3. 人事・労務デューデリ
- 売り手にとって:未払い残業代がない、就業規則が整備されている、ハラスメント問題が少ないなどは大きな安心材料。職場環境を整えておくことで会社の魅力が増す。
- 買い手にとって:従業員が定着しなければ事業は回らない。未払い残業代や労務トラブルは従業員離脱の原因となる。人事・労務DDは「人が安心して働ける会社か」を確認する調査。
この三本柱を重点的に確認することで、M&A後に致命的なリスクを抱える可能性を大幅に減らすことができます。
デューデリジェンスの実施時期
デューデリジェンスは、基本合意(LOI)を結んだ後、最終契約を結ぶ前に実施するのが一般的です。早すぎると情報が十分に開示されず、遅すぎると価格交渉が終わった後に重大なリスクが発覚して取引が破談になる恐れがあります。
デューデリジェンスを怠った場合のリスク
- 買収後に隠れた借金や保証債務が発覚する
- 許認可が不十分で事業継続に支障が出る
- 主要顧客が離脱し、売上が急減する
- 環境問題が表面化し、巨額の対応費用が必要になる
まとめ:成功のための「目利き」作業
デューデリジェンスは、M&Aにおける目利き作業とも言えます。適正価格を見極めるだけでなく、買収後に安心して経営を続けられるかどうかを判断する最終チェックです。
適正価格の算定+デューデリジェンス(三本柱を中心にリスク確認)。この2つをセットで行うことが、M&Aを成功させるための基本ルールなのです。
次の章では、M&Aに備えて売り手企業が整理しておくべき「株式や会社の準備」について解説します。