
北海道の電力不足を救うか?木くずバイオマス発電のポテンシャルをデータで徹底解説
北海道では、木くずを利用したバイオマス発電が再生可能エネルギーとして注目されています。本記事では、木くずの定義・現状、発電の仕組み、メリット・デメリット、北海道における導入状況とポテンシャルをデータから分析し、電力不足への貢献可能性を解説します。
0. 木くずの定義(法的・行政的な整理)
本記事で扱う「木くず」は、廃棄物処理法上の区分と、再生可能エネルギー分野における木質バイオマスの区分の両方を踏まえて整理しておきます。
廃棄物処理法における「木くず」
廃棄物処理法上の「木くず」は、木材加工や森林作業、建設工事などに伴って発生する木質由来の廃棄物を指します。具体的には、次のようなものが含まれます。
- 製材工場で発生する端材(かんなくず・おが粉・チップなど)
- プレカット工場で発生する切れ端・端材
- 建設現場や解体工事に伴う木材・木片
- 樹皮、枝条、根株などの木質系廃棄物
- 木製パレットや木箱等で廃棄物となったもの
このうち事業活動に伴って継続的に発生するものや、建設工事に伴うものは産業廃棄物として扱われ、「木くず」という品目に分類されます。
再生可能エネルギーにおける木質バイオマスの区分
再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)では、発電燃料としての木質バイオマスは一般に次のように区分されています。
- A材:森林由来の未利用材(間伐材・枝条・末木・根株など)
- B材:一般材(製材残材、工場端材などの比較的清浄な木材)
- C材:リサイクル木材(建設発生木材などで異物除去済みのもの)
本記事では、森林由来の未利用材や製材工場・建設現場で発生するエネルギー利用可能な木質資源全般を広く「木くず」と呼び、特にバイオマス発電に利用されるものを中心に論じていきます。
1. 北海道の電力事情と「木くず」への期待
北海道は冬季の暖房需要が非常に大きく、全国の中でも電力需要の季節変動が激しい地域です。北海道電力の冬季需給見通しでは、最低限必要とされる予備率3%は確保しているものの、5%を下回る見込みの年度もあり、「余裕はあるが決して十分ではない」という状況が続いています。
一方で、北海道は日本有数の森林地帯であり、木くず(木質バイオマス)を再生可能エネルギーとして活用するポテンシャルが大きい地域です。道内の再エネによる発電電力量は年間でおおよそ100億kWhを超え、そのうちバイオマス発電が約2割弱を占めるまでに拡大しています。
木くずを燃料とする木質バイオマス発電は、天候に左右される太陽光や風力と違い、燃料さえ確保できれば計画的に出力をコントロールできる「調整可能な再エネ」です。冬季のピーク需要対策という観点からも、北海道にとって相性の良い電源と言えます。
2. 木くず(木質バイオマス)の現状
北海道内で発生する木くずのうち、特に重要なのが「林地未利用材」です。これは、森林整備や伐採の際に発生する末木・枝条・規格外材などで、丸太として販売したり製材に回したりすることが難しい木材を指します。
北海道庁の推計によると、令和元年度における林地未利用材の発生量と利用状況は概ね次のとおりです。
- 林地未利用材の発生量:約140万m³/年
- このうちエネルギー利用に回った量:約85万m³/年
- 未利用のまま林地等に残された量:約55万m³/年
エネルギー利用率はおよそ6割にとどまり、4割近い木質資源が活用されずに残されていることになります。林地未利用材は、立地条件や作業道整備の有無によって伐り出しコストが大きく変わるため、市場に乗りにくいという構造的な課題があります。
また、近年は道内各地で木質バイオマス発電所が稼働を開始した結果、地域によっては燃料の競合や需給ひっ迫も見られます。一方で、発電所やボイラー設備がない地域では、依然として未利用材が多く残っているなど、「地域偏在」が大きな論点になっています。
3. 木くずによるバイオマス発電の概要と日本全体の動向
3-1. 木くずバイオマス発電の仕組み
木くずによるバイオマス発電は、基本的には「燃やして電気をつくる」システムですが、実際には次のような方式があります。
- 蒸気タービン方式:木質チップやペレットをボイラーで燃焼し、発生した蒸気でタービンを回して発電する方式。中~大規模発電所で一般的。
- ガス化方式:木質バイオマスを高温でガス化し、そのガスをガスエンジンやガスタービンで燃焼させて発電する方式。比較的高い発電効率が期待できる。
いずれの方式でも、木くずをチップやペレットなど燃焼しやすい形に加工し、安定的に供給する燃料サプライチェーンの構築が不可欠です。
3-2. 日本全体におけるバイオマス発電の位置づけ
日本全体の電源構成を見ると、再生可能エネルギーの比率は約25%前後まで増加しており、このうちバイオマス発電は発電電力量ベースでおよそ5~7%程度を占める電源となっています。国のエネルギーミックスでは、2030年度にバイオマス発電で年間数百億kWh規模を確保することが想定されています。
太陽光や風力に比べて導入ペースは緩やかですが、出力が安定していることから「系統を支える再エネ」としての期待が大きく、特に木質バイオマスは森林資源の多い地域における重要な電源と位置づけられています。
4. 北海道における木質バイオマス発電の導入状況
北海道内では、FIT制度を活用した木質バイオマス発電所が各地で稼働しています。代表的な事例を挙げると、次のような地域に立地しています。
- 上川管内・下川町:木質ガス化発電(約1,997kW)
- 石狩管内・江別市:大規模木質バイオマス発電(約25,400kW)
- 石狩管内・石狩市・当別町:木質チップ等を燃料とする発電設備
- 胆振・日高・渡島管内:苫小牧市、北斗市などで中規模発電設備
- オホーツク管内:網走市・紋別市・津別町の地域発電・熱電併給設備
- 釧路管内:石炭火力との混焼発電(釧路市・約88,000kW)など
これらを合計すると、北海道で稼働している木質バイオマス発電設備はおおよそ28万kW(0.28GW)規模と推定されます。道産材を燃料とする発電所では、製材工場や合板工場の残材、林地未利用材などが燃料として活用されています。
発電用として消費される道産材は年間約98万m³程度に達しており、製材用やパルプ用と並ぶ消費先になりつつあります。これは、木くずが既に「エネルギー産業の燃料」として一定の地位を築いていることを意味します。
5. 数字で検証:木くずバイオマス発電は北海道の電力不足にどれだけ効くか
5-1. 現在の道産材由来の発電量(概算)
ここでは、道産材を燃料にした木質バイオマス発電が、どの程度の電力量を生み出しているかを、簡易的なモデルで試算してみます。前提条件は次のとおりです。
- 発電用に利用されている道産材:約98万m³/年
- 木材のかさ密度:0.8t/m³(樹種・含水率を考慮した平均的な値)
- 木材1tあたりの発熱量:3.5MWh(低位発熱量ベースの概算)
- 発電効率:25%(蒸気タービン方式の一般的なレンジ)
この条件で計算すると、
- 木材の一次エネルギー量:98万m³ × 0.8t/m³ × 3.5MWh/t ≒ 約2.7TWh
- 発電電力量:2.7TWh × 25% ≒ 約0.7TWh(約7億kWh)
北海道全体の年間電力需要をおよそ340億kWh程度とみなすと、木くず由来の電力量はそのうち約2%を支えている規模感になります。
5-2. 未利用の林地未利用材をフル活用した場合の追加ポテンシャル
次に、現在は利用されていない約55万m³の林地未利用材を、すべて発電用に回せたと仮定してみます。同じ条件で計算すると、
- 一次エネルギー量:55万m³ × 0.8t/m³ × 3.5MWh/t ≒ 約1.5TWh
- 発電電力量:1.5TWh × 25% ≒ 約0.4TWh(約4億kWh)
これは、北海道全体の電力需要のうち約1.1%前後に相当します。
5-3. 合計ポテンシャルのイメージ
上記の概算をまとめると、
- 既存の道産材由来の木質バイオマス発電:約2%分の電力量
- 未利用の林地未利用材を全量活用できた場合の上乗せ:約1%分の電力量
となり、理論上は木くずだけで北海道全体の電力量の約3%程度を賄えるポテンシャルがあると考えられます。
もちろん、実際には林地未利用材の全量をコスト的・技術的に回収することは難しいほか、他用途との競合もありますが、「3%前後のポテンシャル」というオーダー感は、電力不足対策の選択肢として十分に意味のある数字です。
6. 木くずバイオマス発電のメリット
- 天候に左右されない安定電源
燃料さえ確保できれば、太陽光や風力のように出力が急変することはなく、計画的な発電が可能です。冬季のピーク需要対策として非常に相性が良い電源です。 - 森林整備・林業の採算性向上
これまで価値が低かった未利用材や低質材にもエネルギー利用という付加価値がつくことで、森林整備の採算性が向上し、林業・運搬業など地域の雇用創出にもつながります。 - カーボンニュートラル(「伐ったら植える」が前提)
伐採と再造林が適切に行われていれば、燃焼時に排出されるCO₂は成長過程で吸収された分と相殺され、カーボンニュートラルなエネルギーとみなすことができます。 - 廃棄物削減・循環型社会への貢献
本来は林地に放置されたり、埋立てられたりする木くずをエネルギーとして有効利用することで、廃棄物の削減と資源循環の推進につながります。
7. 木くずバイオマス発電のデメリット・課題
- 燃料調達リスク(原料競合・価格変動)
木質バイオマス発電所が増えると、製材工場や製紙工場、ペレット工場との間で原料の競合が生じ、価格の高騰や供給不安定を招くおそれがあります。 - 再造林の遅れと持続可能性
伐採後の再造林が追いついていない地域では、長期的に森林資源が減少し、CO₂吸収源としての森林機能が低下するリスクがあります。エネルギー需要に合わせた無理な伐採は厳に避ける必要があります。 - 発電効率が相対的に低い
蒸気タービン方式の発電効率は一般に20~30%程度と、天然ガス火力などに比べて高くありません。そのため、発電だけでなく、熱供給も含めた熱電併給(コジェネレーション)で総合効率を高める工夫が重要です。 - 輸入バイオマス依存の問題
全国的には、パーム椰子殻(PKS)や輸入ペレットへの依存拡大が問題視されており、海外の森林破壊や長距離輸送に伴うCO₂排出増への懸念があります。北海道としては、できる限り道産材を中心とした地域循環型モデルを構築することが望まれます。 - 集荷・輸送インフラの整備不足
林地未利用材を効率よく集荷するには、作業道の整備や集積場の設置、輸送コストの低減など、インフラ面での投資が不可欠です。地形条件が厳しい地域では、採算性の確保が課題になります。
8. 北海道における木くずバイオマス発電の今後の方向性
北海道庁は、木質バイオマスエネルギーの導入状況や林地未利用材の発生量を調査・公表し、地域ごとのエネルギー利用ポテンシャルを明らかにしています。そのうえで、次のような方向性を示しています。
- 地域内で完結する「地産地消型エネルギーモデル」の構築
- 林地未利用材の低コスト集荷技術の導入・普及
- 公共施設・学校・福祉施設などへの木質ボイラー導入
- 木質バイオマス発電と熱利用を組み合わせた地域熱供給
- 市町村単位でのバイオマスエネルギー利用計画の策定
すでに、道内各地で学校や公共施設における木質ボイラーの導入、製材工場の残材や建設発生木材を利用した熱電併給設備の導入など、実証的な取組が進んでいます。今後は、こうした事例を横展開しつつ、林業・製材業・エネルギー事業者・自治体が連携して、持続可能な燃料サプライチェーンを構築できるかどうかが鍵になります。
結論:木くずバイオマス発電は「北海道の電力不足に貢献できる」
ここまで見てきたように、木くず(木質バイオマス)には、北海道の電力不足を緩和するうえで次のような特徴があります。
- 道産材を燃料とする木質バイオマス発電だけで、道内電力需要の約2%程度をすでに支えていると推定される。
- 未利用の林地未利用材を技術的・経済的に活用できれば、さらに約1%程度の上乗せポテンシャルが存在する。
- 天候に左右されない安定電源として、冬季ピーク需要対策に大きく貢献し得る。
- 森林整備・林業振興・地域経済の活性化、カーボンニュートラル推進といった副次的な効果も期待できる。
課題として、燃料調達リスクや再造林の遅れ、発電効率やコスト、輸入バイオマス依存の問題なども存在します。しかし、これらは適切な制度設計と地域連携、長期的な森林管理のもとでコントロールしていくべき論点であり、「木くずバイオマスそのものの価値」を否定するものではありません。
総合的に見れば、
「木くずによるバイオマス発電は、適切な設計と持続可能な森林管理を前提とすれば、北海道における電力不足の緩和に確実に貢献しうる」
と言うことができます。北海道の豊かな森林資源を「無理なく・賢く」活用し、電力・雇用・環境の三方よしを実現できるかどうか。今後の具体的なプロジェクトや制度設計が、まさに問われている段階だといえるでしょう。

