
中小企業経営者のためのM&A完全ガイド|適正価格・のれん・デューデリジェンス・社員対応まで徹底解説5
第5部:成立後の経営体制
M&A成立後に待ち受ける課題

M&Aは契約締結がゴールではなく、そこからが本当のスタートです。経営体制の構築やオーナー社長の処遇は、統合(PMI: Post Merger Integration)をスムーズに進めるための重要課題となります。
1. M&A成立後の社長の役割(誰が経営責任者になるか)
- 買い手企業の社長が就任:一般的な形。資本を出した側が最終責任を負うため、経営の指揮権を持つ。
- 売り手オーナーが一定期間残る:引き継ぎや顧客対応のために残任させるケース。期間は1〜3年が多い。
- 共同経営体制:買い手・売り手双方から役員を出し、暫定的に経営を担う方法。ただし意思決定が遅れるリスクもある。
👉 ポイント:誰が「最終責任者」になるかを明確にしないと、従業員や取引先に混乱を招くため、契約段階での合意が不可欠です。
2. オーナー社長の営業・顧客の引継について
中小企業のM&Aで最もリスクが高いのが「営業活動がオーナー社長に依存しているケース」です。多くの会社では、社長自らが主要顧客を開拓し、信頼関係を築いています。そのため、M&A成立後にオーナーがすぐに退任すると、顧客が離れてしまう可能性があります。
なぜ引継ぎが重要か
- 顧客は「会社」ではなく「社長個人」を信頼している場合が多い。
- オーナー退任後、顧客が「付き合いをやめる」「発注を減らす」などの行動をとるリスクがある。
- 営業引継ぎが不十分だと、買い手企業は想定していた売上を確保できず、M&Aの失敗につながる。
引継ぎの進め方(ステップ)
- 重要顧客のリスト化:取引金額の大きい顧客・関係の長い顧客を洗い出し、担当者名、取引履歴、契約条件、特別要望まで整理。
- 顧客訪問の同席・紹介:オーナーと新経営陣が同席して正式紹介。文書よりも直接面談が有効。
- 段階的な役割移行:初期はオーナー同席、後半は新経営陣が主導へ移行し、顧客が自然に慣れる流れを作る。
- 顧客フォロー体制の整備:営業担当やCS配置、引継ぎマニュアル・FAQ整備、研修で属人的営業から組織的営業へ。
契約書面での工夫
- M&A契約に「オーナーが一定期間営業活動を補助する」条項を盛り込む。
- 顧問契約やアーンアウト報酬と組み合わせ、売り手のインセンティブを確保。
具体的な失敗事例
- 引継ぎが不十分で主要顧客が契約を解消し、売上が大幅減少。
- 社長が急に退任し、社員が営業を引き継ごうとしたが信用されず失注。
💡 まとめ:営業・顧客の引継ぎは業績を守る「生命線」。
顧客リスト化 → 正式紹介 → 段階移行 → 体制構築 の順で計画的に実施しましょう。
3. M&A後のオーナーの処遇(残すか、退任か)
M&Aの成否を左右する大きな要素の一つが「売り手オーナーの処遇」です。特に中小企業では、オーナー=経営の中心であり、顧客・従業員・取引先からの信頼もオーナーに紐づいていることが多いため、処遇を誤ると統合後の経営に大きな影響を与えます。
オーナーを残す場合
メリット:顧客引継ぎがスムーズ/社員の安心感/ノウハウ・人脈の継承
デメリット:新体制との摩擦リスク/意思決定のスピード低下
オーナーを退任させる場合
メリット:経営権の一本化/新しい企業文化の導入が容易
デメリット:顧客・社員の不安増大/ノウハウ喪失リスク
最適解:一定期間残して段階的に退任
- 期間目安:1〜3年
- 役割:顧問・会長として助言と引継ぎに専念(経営権は買い手へ委譲)
- 報酬:顧問料・アーンアウトの組み合わせで合理的に設計
💡 まとめ:二択ではなく段階的な移行が現実的で成功確率が高い方法です。
4. オーナーの報酬の考え方(顧問料・アーンアウトなど)
- 顧問料:退任後も顧問として関与する場合の月額定額報酬。
- アーンアウト(Earn-out):M&A後の業績に応じた追加報酬。売り手の協力度を高めるインセンティブ。
- リタイア金・役員退職慰労金:完全退任時にまとめて支給。
👉 ポイント:売り手のやる気を引き出しつつ、買い手の負担を抑えるバランス設計が重要です。
まとめ
M&A成立後は、以下を徹底することで買い手・売り手双方にとって納得のいく体制を築けます。
- 誰が経営責任者になるかを明確化
- 営業・顧客引継ぎを計画的に実施
- オーナーの処遇を段階的に決定
- 顧問料やアーンアウトで合理的な報酬設計
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