
中小企業経営者のためのM&A完全ガイド|適正価格・のれん・デューデリジェンス・社員対応まで徹底解説4
第4部:交渉と契約
M&A交渉と契約で失敗しないための重要ポイント|価格調整・トップ面談・合意形成

M&Aは「合意して契約書に署名するまで」がゴールではなく、むしろそこからが本当のスタートです。
そのためには、交渉段階で信頼関係を築き、契約にリスクを残さないことが何より重要です。
1. 交渉の基本姿勢(詳説)
M&Aの交渉は「値段の駆け引き」だけではなく、会社の未来を左右する重要な対話です。ここでの姿勢が、相手の信頼を得られるかどうか、さらには契約後の良好な関係につながるかを大きく左右します。
✅ 売り手側の基本姿勢
- 過去ではなく未来を語る:実績だけでなく、「この会社は買い手にとってどんな価値を生むか」を説明する。
- 従業員や取引先への責任感を示す:「社員の雇用を守りたい」「取引先との信頼を維持したい」など、価格以外の優先事項を率直に伝える。
- 隠し事をしない:問題を隠すと、後のデューデリや契約違反で信頼を失い、交渉が破談になるリスクがある。
✅ 買い手側の基本姿勢
- 価格だけでなく「相性」を重視する:会社文化や人材が自社にフィットするかを確認することが重要。
- 売り手の想いを尊重する:単なる「買収対象」ではなく、長年築き上げた成果を受け継ぐ意識が信頼を生む。
- 引き継ぎ後のビジョンを示す:「社員の処遇」「ブランド活用」「成長戦略」など将来像を示すことで安心感を与える。
✅ 双方に共通する姿勢
- Win-Winの発想:一方的に有利な条件ではなく、双方が「納得感」を持てる着地点を探す。
- 対立ではなく協力の場:値切り合戦ではなく、「一緒に事業を成長させるパートナー探し」という意識。
- スピード感と誠実さ:返答遅延や曖昧な態度は不信感を招く。迅速かつ誠実な対応が成功の鍵。
💡 まとめ:M&A交渉の基本姿勢は「価格より信頼」。信頼関係が築ければ、条件調整も円滑に進み、契約後の統合もスムーズになります。
2. トップ面談の重要性(詳説)
財務諸表や契約書のチェックでは見えない「人となり」や「経営姿勢」がM&Aの成否を大きく左右します。トップ同士が直接話し合うトップ面談は、交渉全体の成否を決める重要なプロセスです。
✅ トップ面談で確認できること
- 経営哲学や価値観
売り手:どんな想いで会社を育ててきたのか
買い手:どんなビジョンで事業を発展させようとしているのか
→ 数字に表れない「経営者の哲学」を確認できる。 - 従業員や顧客への姿勢
社員の扱い方、取引先との信頼関係の維持方法
→ 会社文化を理解し、M&A後の統合(PMI)がスムーズに進むかの材料になる。 - 誠実さ・信頼性
隠し事をしていないか、誠実に説明しているか
→ 短いやり取りでも「信頼できる人か」が伝わる。
✅ トップ面談が持つ役割
- 信頼関係の構築:人対人の信頼を確認できる。
- 安心材料の提供:買い手が「この人からなら安心して会社を引き継げる」と思える。
- 交渉の潤滑油:関係性が良ければ条件交渉も柔軟に進む。
✅ 不十分だと起きるリスク
- 経営理念が合わず衝突
- 「社員を大事にしない」との印象で不信感が生まれる
- 従業員離職などで統合が失敗に終わる
💡 提言:トップ面談は単なる儀式ではなく「信頼確認の場」。経営者の人間性や理念を理解し合うことで、統合をスムーズに進められます。
3. 解約返戻金の扱い(詳説)
会社が保有する保険契約の「解約返戻金」は、M&Aで必ず資産評価や価格交渉の対象になります。
✅ 選択肢と影響
- 売り手がM&A前に解約して回収する:売却前に返戻金を現金化 → 企業価値が下がり、売却価格が低くなる。
- 会社に残して売却する:返戻金を含めた資産として評価される → 売却価格は高くなりやすい。
- M&A成立後に買い手が解約する:返戻金は買い手の利益に → 売り手には不公平感が残りやすい。
✅ 交渉上の注意点
- 誰が返戻金を得るのか事前に合意する
- 価格調整の対象として契約に盛り込む
- 税務処理を確認(法人税・所得税の影響あり)
✅ 実務での調整方法
- 返戻金相当額を売却価格から調整
- 契約書の「価格調整条項」に記載
- クロージング時点の返戻金を確認し、最終価格を決定
💡 まとめ:解約返戻金は「現金化できる隠れ資産」。事前に取り扱いを合意し、契約に反映させることがトラブル防止の鍵です。
4. 契約書に盛り込むべき重要条項(具体的書類付き 詳説)
M&A契約書は、売り手・買い手双方のリスクを防ぐ「安全装置」です。特に重要な条項と関連書類は以下のとおりです。
✅ 表明保証条項
虚偽や隠れた債務がないと保証する条項。
- 財務諸表(3期分決算書):会社の収益性や財務状況を示す基礎資料
- 納税証明書:税務署からの未納税確認用
- 許認可証(産廃処理業・建設業など):事業継続に必要な許可の存在を確認
- 契約書一覧(主要取引・賃貸借):取引先や不動産契約の実態を把握
- 訴訟・係争案件リスト:法的リスクの有無を明確化
✅ クロージング条件
株式譲渡を実行する前提条件を規定。
- 株主総会議事録(譲渡承認決議):株式譲渡を承認した議事内容
- 株主名簿(最新化済み):現行株主の状況を把握するための台帳
- 株券の引渡し書類(発行会社の場合):株式移転の正式な証憑
- 担保解除証明書(金融機関発行):抵当権や質権の解除を証明
- 許認可承継の届出書:行政許認可事業を継続するために必要
✅ アーンアウト条項
M&A後の業績に応じ追加対価を支払う仕組み。
- 月次試算表:業績進捗を短期ごとに確認する資料
- 売上台帳(顧客別):収益の源泉を顧客単位で可視化
- 受注残一覧:将来の収益見込みを明らかにする台帳
- 税理士・監査法人の業績確認書:客観的に業績を証明
✅ その他の条項と書類
- 競業避止義務条項:競業避止合意書(売り手が一定期間同業で競合しないと誓約する)
- 役員・従業員の処遇条項:雇用契約書、就業規則、退職金規程(従業員の待遇や権利を明確化)
- 価格調整条項:残高証明書(金融機関発行の残高確認)、在庫一覧、現金出納帳(資産・負債状況を確認するため)
5. 専門家の関与
契約交渉は法律・税務・会計が複雑に絡むため、専門家の関与が必須です。
- 弁護士:契約書チェック、リスク防止
- 会計士・税理士:価格評価、税務処理
- FA:交渉全般のサポート
専門家を入れない交渉は、後の債務発覚・税務リスク増大につながります。
6. まとめ
M&Aの交渉・契約は「価格」だけではありません。次の4点を徹底しましょう。
- トップ面談で信頼を築く
- 解約返戻金を明確に整理する
- 契約書にリスク防止条項を盛り込む(表明保証・クロージング条件・アーンアウト・競業避止など)
- 専門家の関与で安全性を高める
これらを徹底することで、M&A後のトラブルを防ぎ、スムーズな事業承継を実現できます。
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